<窮地を救った理事長の一言>
試合直前まで特訓を重ねた福工大硬式野球部は、今年4月20日から始まった「2013年福岡六大学野球 第42回春季リーグ戦」に、監督と選手たちが一丸となって臨んだ。初戦の九州産業大学戦は1点差で落としたものの、その後は同部のスローガンである『全心野球』を胸に、快進を続けた。
しかし、優勝への道は、そう簡単には開けない。5月第4週目に入り、福岡教育大学戦で2敗してしまった。このときは、さすがに「もう駄目かもしれない」と、塩屋佳宏監督は思ったそうだ。
ここで優勝できなければ、応援してくれた地域の人々、学校関係者、学生たちに申し訳ない。選手たちに対しても、果たして正しい指導ができていたのかどうか。いくら過程で努力をしたとしても、結果が出せなければ、何も残らない。もっと頑張らねば、しかし選手たちは、今まで精一杯、頑張ってきた。彼らだって、どうしたらいいのかわからないのだ。これ以上頑張れと、どうして言えるだろうか。
追い詰められた心境で、塩屋監督は構内を歩いた。後ろ向きなことばかりが脳裏に浮かんだ。そのとき、鵜木洋二理事長とすれ違った。今、一番合わせる顔がない、と思っていた人だった。
だが、このとき、鵜木理事長にかけてもらった言葉が、塩屋監督の気持ちを変えた。
「頑張らなくていいですよ。しかし、目の前の対戦相手に対しては、精一杯向き合わねばならん!」
プレッシャーで押し潰されそうになっていた塩屋監督の心から、重く垂れ込めた霧が一瞬にして消えた。その時の塩屋監督にとって、何よりもありがたい言葉だった。「あの一言がなければ、優勝はなかったかもしれません」と、鵜木理事長に対する感謝は計り知れない。
重責から解放された監督の姿を感じたのか、選手たちも続く九州工業大学戦では調子を取り戻し、大量得点で連勝。見事、優勝を手にすることができた。最終戦での皆の応援が、後押しをしてくれたことは、既報の通りだ。
<そして全日本大学野球選手権へ>
6月11日、福工大硬式野球部は、全日本大学野球選手権に出場する。不慣れな土地で、全国から集まった強豪たちとの対戦となるが、今までベストを尽くしてきたことへの自信と、その結果引き起こしたことへの反省、そしてたくさんの応援が選手たちの血肉になって、善戦してくれることだろう。
選手たちは、皆、学生だ。まずはそれぞれの授業をこなしながら、野球を通じて精神を鍛錬していく。プロの選手を目指しているわけではない。しかし、何かに真剣に取り組んでいれば、自ずとプロ意識が芽生えていく。「若者の力はすごいですよ」と、塩屋監督が言うように、若い頃の知識の吸収力、技術の習得力というのは、計り知れない可能性を秘めている。
その、可能性を秘めた若者たちの力を発揮する場として、地域が、社会が、そして日本が、豊かな受け皿になることを、望むばかりだ。まずは、6月11日、全国大会が行なわれる神宮球場の選手たちのもとへ、地元からのエールが届くことを祈っている。
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